この本は上・中・下編の三部構成であるが、上編のーの二において、河上は「われわれ人間にとってたいせつなものはおよそ三ある。その一は肉体であり、その二は知能であり、その三は霊魂である」という。肉体的側面の検討に偏りがちな経済学に意識的か無意識的か批判を加えている。
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上編では、知能と霊魂は測定不可能であるから、肉体を維持するために必要な所得を得られない者を貧乏人と定義する。そして、貧乏人が世界一の富裕国であるイギリスにも存在し、世界的な課題であることを指摘する。客観的に貧困の現実を評価することを試みている。
中編では、貧困問題の原因は、富裕者が贅沢品を需要することにあるという。機械の発達により生活必需品の生産能力は十分なはずであるが、購買能力を伴う需要というものは生活必需品に対するより贅沢品に対する方が旺盛である。そして民間部門に生活必需品の生産を任せることに疑問を呈する。
下編では、貧困問題の解決策を三つ提案する。第一に富裕者が贅沢を慎むべきということ。第二に所得再分配をすべきということ。第三に生活必需品を政府部門が生産すること。贅沢と必要の区別は相対的だとしたうえで、富裕者の自制によって解決される第一の策を特に重視している。
この「貧乏物語」は、当時の日本やドイツが全体主義に傾倒してゆく過程を明らかにするだけでなく、現代経済学が、知能と霊魂の重要さより、肉体・物質・金銭的な側面だけを重視していることを気付かせてくれる。河上は、富裕者や指導者たちの霊魂に特に期待しているように思う。
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