2018年12月16日日曜日

「人間の経済」宇沢弘文

「人間の経済」は日本の経済学者である故宇沢弘文が晩年に著した本である。本の構成は整っているとは言い難く、宇沢の人生の中で心の中に積もったわだかまりを箇条書きにした感が否めない。ただ米欧日で経済学に従事した彼の遺言と捉えれば、その話題が広範に渡っていることも理解できる。


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宇沢は最初医学部を志し、数学科に転じ、最後に経済学に行き着いたという経歴の持ち主だ。医学が人を治療する学問であるのに対し、経済学は社会を治療する学問であると考えたという。しかし、彼は現代経済学の意義について懐疑的であり、彼自身が自分の人生の選択に悩み続けたようだ。

経済思想という意味では、ミルトン・フリードマンに代表される市場原理主義に対する批判が手厳しい。市場原理主義はあらゆるものの価値をお金で測ろうとし、お金を儲けるためには何をしてもよいという思想だという。日本の市場原理主義として小泉・竹中政権を批判している。

気候変動対策という意味では、排出権取引制度を痛烈に批判する一方、炭素税を推奨している点が興味深い。排出権取引は最初の排出権割当次第で売り手と買い手が決まる非倫理的で社会正義に反する制度であり、炭素税制度の方が公平だと主張する。前者を提案するアメリカを批判している。

このほか米欧日の医療制度や教育制度など、宇沢の関心は幅広い。経済制度に対する彼の考え方を理解するには、彼の代表作「社会的共通資本」を通読する必要があるかもしれない。ただ、彼の遺書ともいうべきこの著書を通じて彼が訴えたかったことは、人間の心が最も重要だということだろう。

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