2017年6月21日水曜日

開発経済学の最重要課題:「Institutions (制度・慣行)」

僕は日本の大学で経済学専攻ではなかったこともあり、日本の経済学界の動向を全く知りません。もしかしたら、日本とオーストラリアの学界では考え方が違うのかもしれませんが、今日は、ANUで学んだ開発経済学の最重要課題である Institutions について整理してみたいと思います。Institutions の正確な日本語訳を知りませんが、「制度・慣行」と訳するのが妥当だと考えています。

なぜ発展途上国において Institutions が重要かというと、これがしっかりしていないと、政治の腐敗と取引コスト高に繋がるんです。政治の腐敗という意味では、政府内の政治家・官僚には贈収賄の機会が多くあります。彼らが賄賂に手を染めると、政策の予測可能性が著しく低下します。政策がコロコロ変わったり、行政の現場で政策の効果が減殺されるかもしれないからです。その結果、少なくとも長期的には海外の投資家や多国籍企業はその国への投資を控えるようになります。

取引コストは、明示的には不動産業者や会計士、弁護士などの手数料、暗示的にはもう少し広い概念で、法治主義、私有財産の保護、有限責任、契約履行の確実性などです。前者は財・サービスの生産者・消費者の経済活動に要する実費用という意味において、後者は生産者・消費者の経済活動に要する時間コストという意味において、それぞれ明示的・暗示的です。これら取引コストが高くなると経済活動が停滞し、市場が機能しなくなることは容易に想像できると思います。

一言でいえば、Institutions には健全な競争市場の枠組みを調える機能があるということでしょう。しかし、興味深いことに、ミクロ・マクロ経済学の前提では、政治の腐敗はもちろん、取引コストもゼロとされています。つまり、発展途上国のミクロ・マクロ経済政策が意図する効果を生じない主な理由の一つはこの Institutions だということです。


日本で暮らしていると意識することが少ない Institutions のクオリティ。発展途上国では最重要課題なんだなぁ、ベターな経済政策を実行しようとしても前提段階で躓くんだなぁ、第1セメスターの開発経済学理論を通じて腑に落ちた内容のひとつです。

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